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思いつきショートショート ブログトップ
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寄り添い星 [思いつきショートショート]

夜空に貼り付けられた無数の星たちをひとり見上げていた彼女は、
回りから少し離れて光るふたつの星を見つけて、ため息をついた。
“寄り添い星かあ…いいなあ…”

彼女がそう感じてしまうのも無理はない。
1週間前、彼女は付き合っていた彼氏から「他に好きな人ができた」と告白された。
クリスマスだってもうすぐだし
正直、プロポーズも少し期待していたのに。

その夜、彼女は親友を誘ってアルコールにつぶれた。
続く2日間は、頭痛と吐き気にたたきのめされ、
ようやくここ数日間で、正常な自分を取り戻したばかり。
もちろんそれは、身体的には…という意味で、心の痛みは癒されていない。
気分転換で星でも眺めようと公園に来てはみたものの、
奥底からあふれ出してくるのは、ため息だけだった。
遊歩道で寄り添い歩くふたつの影とすれ違うたびに、いっそう気が沈んだ。

「せんぱぁ〜い、どうしららいいと思いますぅ?」
それから数日後、彼女は懲りもせず、居酒屋にいた。
前に座っているのは、職場の先輩。
憂さ晴らしをするには、女どうしのほうが良かったのだが、
なぜかタイミング良く2つ年上のリーダー職から飲みに行こうと誘われたのだ。

その先輩もだんだん酒が回り、ふたりして小難しい話が多くなっていた。
まあ、会社の中でのそれとは違い、たわいもないといえばその通りの会話なのだが。
3時間近く話し続けて、それでも気持ちが収まらない彼女は言った。
「どうせ私は、未練タラタラ女ですよぉ〜。でも、だって……」
それを遮るように、先輩が、諭すように話しかけた。

「なあ、サキちゃん、最近星空を見たことあるかい?」
唐突な質問。しかし、彼女は、公園で見た寄り添い星のことを思い起こし、
自分には似合わないセンチメンタルな記憶ゆえ、ごく小さく頷いた。

「星が二つ並んでいると、その距離はとても近く思えるだろ?
こちらから見ていると寄り添っているようにも見える。
でもな、それは人間が勝手に夜空という平面を見て思っているだけ。
実際のところ、真横から見たら…」
そこで説明に少し戸惑った先輩は、テーブルの上を見回し、
枝豆を2つサヤから取り出して、
彼女の顔から20cmにひとつ、自分の鼻先にもう一つを、
目線の高さでつまんで見せた。

「な、分かるだろ?」
そう言って彼はできるだけ優しい視線を彼女に投げた。
「サキちゃんは今、彼氏を別の女にとられて、
そのふたりの距離が近いと思い込んでいる。
自分はこちらにいて、ふたりを恨めしくも思っている。でもそれは…」
先輩はそこまで言いかけて、次の言葉に困った。

その前の夜、彼は彼女が振られたことを知り、
何とか立ち直らせようと策を練っていた。
早い話、新人として彼女が入社して以来、ずっと好意を持っていたが、
言い出せずにいたのだ。
つまりチャンス到来…。
さらにいえば、星の話は、自分への慰めとして思いついたことでしかない。
でも同じ慰めを彼女に伝えれば…と頭の中ではうまく行っていたのに、
いざ彼女の前で話しはじめ、いよいよここからが本題…と思ったとき、
どうも話の展開が、自分でも違っているように思えたのだ。

さっきからサキは彼の話を頭の中で反芻しているようだった。
ただ、枝豆を使った説明は、彼女にとっても分かりにくかった。
それよりも、あの晩に見た寄り添い星の位置関係を
頭の中で90度回転させてイメージしたほうが早かった。

「そうですよね?彼氏が相手の女性のほうに行ってしまった気になっていたけど、
まだ、そうと決まったわけじゃないですよね?」
酔いが多少残っていることを自覚しているのか、
彼女は自分の見方が間違っていないことを確かめつつ、ゆっくりと笑顔になっていく。
それに反して男の顔には、期待とは正反対の展開に失望の表情が浮かんでいく。

「先輩、ありがとうございます。こんな私を勇気づけてくれるなんて。
本当にわたし、うれしいです」

彼女は水を得た魚のように、彼氏との思い出話や復縁策を
それから1時間しゃべり続けた。
男がテーブルの下で、ツメの跡がつくほど強く拳を握り続けているとは知らずに…。
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信じる気持ち [思いつきショートショート]

信じる気持ちを持とう、と自分に言い聞かせる。
あの国の人を私は知っている。
その人は、テレビから流される情報に、
私たちが何気なく発するひと言に
傷つきながら暮らしてきた。
それでも、笑って静かに耐えて暮らしている。

信じる気持ちを持とう、と自分に言い聞かせる。
私のとなりにいる人を、心で感じ、
祈ろう。
誰のためでもない、自分自身がそういう人間でありたいと願うから。

強く願わなくてもいい。強く信じなくてもいい。
心の泉に湧き出る水のように、静かに、少しずつでいい。
できるだけ清らかな水で心を充たしながら、
隣にいる人のことを想おう。


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嬉しかったこと [思いつきショートショート]

スーパーマーケットの入口まで迎えに行ったら、
姿は見えないけどクシャミの音。
それですぐに分かった。
ほどなく荷物を抱えたキミが現れて…。
なんだか嬉しかった。
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明日、そちらへ行ってもいいですか? [思いつきショートショート]

天国で暮らす老婆に一通の手紙が届いた。
かつての世で生きていた頃には、
あの世に行けば、貧乏も憎しみもなく、
みんなが幸せになれると信じて疑わなかった黄泉の国。
だが、15年前に彼女が招き入れられた時には、少し遅すぎたらしい。
雲海の外れに居を与えられた彼女は、以来、孤独な毎日だった。

そんな彼女が受け取った手紙には、珍しく消印があった。
つまり、かつての世からの配達もの。
差出人を見ると、クセの強い文字で、
遺してきた息子の名前が記されていた。

「母さん、 
僕はどうしたらいいんだろう。
もう生きていく自信がありません。
年明け早々に会社から解雇と言われ、
仕事をなくしました。
これで5度目です。
何十社となく面接を受けたけど、
結局どこも返事は同じ。

まわりもはじめは『大丈夫、なんとかなるさ』って励ましてくれた。
でも、この世の中、みんな自分のことで必死。
それを分かっているつもりでも、昨日は辛かった。
お金もなく、寮も追い出され、
いまは公園の茂みに隠れて寝ているような有り様です。
『いざとなったら連絡して来いよ』。
そう言ってくれてた唯一の友達のところへ行って
今日の晩ご飯だけでいいから…と頼んだら
『ごめん、これから彼女と出かけるんだ』で終わってしまった。

悔しい。それを恨んでしまう自分が情けない。
憎んではいけないと分かっていても
「なんで助けてくれないんだ」と感じてしまう。
やっぱり、僕のこの考え方は間違ってるよね。
でも、どうしても頭が勝手にそう考えてしまうんだ。
自分はダメな人間。
自分のことなんて、誰も心配していない。
もう生きてても無駄だって。

母さん、
僕って悲観的すぎる?
自己中心的?
もっと前向きになるためにはどうしたらいい?

分からないんだ。

………
母さん、明日、そっちへ行ってもいいですか。

………」

老婆はその後に綴られた一文字一文字を、食い入るように何度も読み返した。
「明日、そっちへ行ってもいいですか」
その言葉に、呼吸ができないほど胸が締め付けられた。

それは彼女自身が、かつての世で最後にした問いかけと同じだった。
彼女は…その道を選んでしまった。

いまの彼女には、息子に伝えたい想いが山ほどあった。
言葉にはできない、漠然とした「生きる意味」と「生きていく術」。
だが、言葉にできないほど漠然としているだけに、
伝えるには長く時間がかかることも理解していた。

老婆は我が子に会いたかった。
我が身のところへ呼び寄せたかった。
そうすれば、彼は少なくとも今の苦悩からは解放される。
たとえこの世が、下界で考えられているほど幸せではないにせよ…。

しかし、その方法がひとつしかないことも、老婆は理解していた。
我が子をここに呼び寄せる、ということは、
自分がこの世から消えなければならないのだ。

下界で心の通じ合った人間とこの世で再会することは決して許されない。
もし、かつての世に存命する人間を呼び寄せたければ、
自らの存在と引き替えになる。
そして自分はまた別の次元の国へと旅立たねばならない。

老婆は頭の中で苦悩しつつも、自分がどういう行動を起こすか分かっていた。
悩んでみたところで、答えは自分の中ですでに決まっていることであり、
自分が納得のいく道を選ぶことしか、できないのだ。

老婆は、ずっとホコリをかぶったままになっていた年代ものの通信機を取り出してきた。
それは、この黄泉の国を治めている番人へとつながる。
ボタンを押してしばらくすると、回線がつながる音がした。
「どうかしたかね、久しぶりじゃないか」

老婆が自分が言わんとするひとことに決意を込めて伝えた。
「明日、あの世へ行かせてもらってもいいですか?」

もちろん、遙か下界で打ちひしがれている息子は知るよしもなかった。
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 [思いつきショートショート]

突風が吹いた。
午前中、あれだけ晴れていたのに、
急に曇ってきて、
その黒い塊を見上げた時、
西から東へ、
風が一列をなして走りすぎた。

猫バスが通ったな。
年甲斐もなくそんな想像をしてしまった自分に苦笑い。
でも確かに、何かが私の中を通り抜けたような気がする。

目に見えない何か、それとも誰か…。
少し停滞気味だった私の背中を押してくれたのだろうか。
そんな生ぬるい励ましではなく、
しっかりしろ!って喝だったのか。

風は温かく感じられた。
まだ大丈夫。



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心のオブラートを脱ぎ去って [思いつきショートショート]

屈託のない笑顔が、今、男の前にあった。
これ以上人を幸せにする術はないというほどの、朗らかな表情…。

しかしつい数年前、彼は、彼女の真逆の表情と対峙していた。
生い立ちや家庭環境を語る彼女は、真冬にズブ濡れで街を彷徨うマッチ売りの少女も同然だった。
何が発端だったか、男は思い出せなかった。
いつものように接していたはずなのに、彼女の中に溜め込まれた悲しみの堰が一気に開き
それを閉ざせない無力感を抱きつつ、その日は別れた。
以来、その後の彼女を知るのが怖くて、連絡もしなかった。

今目の前にいる彼女は、どっちなんだろう?と男は思った。
心の闇は消えたのだろうか? それとも門を閉め再び悲しみを溜め込み始めただけのだろうか?
正直なところ、未知であるが故の好奇心は、愛情に変わりつつある。
一方で、到底他人の力では取り払うことができない不可思議な靄が、
いっそう彼女の本当の姿を見えにくくしているような気もする。

男はその場の空気にまかせて、彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。
実際のところ、さっきからそのタイミングを計ってもいた。
ちょうど「いまだ」と思ったとき、
少し離れた場所で悲鳴にも似た泣き声が聞こえた。
吹き出す感情の怒濤は……
あのとき、あの夜の彼女のそれとまったく同じだった。

彼女もその声に、かつての自分を思い出したらしい。
一瞬曇った表情から、それは明らかだった。

しかし…

泣き叫んでいる女性の元へ歩み寄ると、彼女はそっとその人を抱き寄せた。
じっと、ずっと。さっき男に見せた寛容な表情のままで。

どれぐらいの時間が経っただろう。
彼女がそっと男の方を見て微笑む。
その視線を受け取った男は、自分が彼女を愛していることを確信した。

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浮遊夢想 [思いつきショートショート]

大きな山の頂にこんこんと湧き出る泉があったとする。
同じ日、同じ時間にそこを出発した水の粒子…
人間には同じ水の筋を流れているように見えて、
どれひとつとして同じ軌跡をたどる者はいない。

途中で分岐し、あるものは滝に落ち、あるものは淀みにはまり、
右へ、左へ蛇行しながら、長い旅路を下っていく。

ある時は、巡り巡って、再び友がすぐ横を並流する時もあろう。
小競りあうように、前に出たり、遅れをとったりすることもあろう。

でもね…結局はみんないつか、海に還っていくんだよ。
途中で水蒸気と化した者は、空中を旅し、雨となって大地に降りる。
その時は、同じ雨の仲間とともに、スタートラインに立つわけさ。
そしていつか、海に還り、そしてまたこの地球のどこかに旅立つんだ。

急がないでいいんじゃないかな。僕らは僕らの目線でしか物事を見ることができないけれど、
きっと宇宙の高いところから見たら、
今日先ん出たあの人も、それを悔やんでいるキミも、極わずかな差でしかない。
彼らがどんなに勝ち誇ったとしても、やっぱりいつかは
彼らも、キミも、そして僕も自然に還るんだから。

僕は思うよ。
僕自身が今の自分の人生を幸せだと感じられるかどうか。
それが「結果」に対するものさし。

それと、何か行動を起こすときは、
たとえその見返りを受け取れなくても、「そうした自分」を自分で褒められるかどうか。
それが「生き方」のものさし。

結局僕らは、宇宙の一部でしかない。
どんなに勝ち誇ったって、悲しんだって、
結局は…ちっぽけなんだ。

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船頭 [思いつきショートショート]

それは古代航海時代のある時。
船は、向かい風をもろともせず
大海原を滑るように走っていた。
正確に言うと、遠巻きに見る船は、そのように見えた。

実際のところ、船上は怒号と悲鳴が飛び交う修羅場だった。
船頭は、煮えくり返ったような目で漕ぎ手をにらみ、むち打つ。
特に凪いだ時は、鞭が鳴る間隔は縮まり、
悲鳴さえ出せなくなるほど漕ぎ手は疲労困憊した。

船頭は陸に上がった時、仲間からうらやましがられるのが自慢だった。
「いやあ、あんたの船はすごい」
「優秀な漕ぎ手を俺にも分けてくれんか?」
そんな彼の船は、いまや国内で知らない人はいないというほど有名だった。
急ぎのもの、重要なもの、お国からも直接依頼が舞い込んだ。

ある時、国王から直々に「かの国まで急いで荷を運んでほしい」と要請が来た。
船頭にとって初めての外洋航海。
でも、ここでさらに名声を高めれば…。

その国までは距離こそあるものの、島づたいに行けるから
途中で物資の補給もできる。幸いこの季節は潮の流れも穏やかだ。

出発した日は風もなく絶好の航海日和だった。
ところが、それが返って彼の自尊心に火をつけた。
頭の中を満たすのは「なぜ其方の船はこれほどまでに早く到着できたのか?」という
かの国首の一言。
そう言わしめるために、彼は途中の島への立寄を極端に減らし、
今まで以上に船乗りたちを酷使した。

出発して3日目、途中の島を通り越したとき、
漕ぎ手の一人がいなくなっていることに気づいた。
「前の日の夜、やつはもうダメそうだった。足を滑らせて海へでも落ちたのだろう…
体力のないやつはダメだ。そういうやつはこの船には必要ない」
しかし、船から姿を消す漕ぎ手は、それから一人、また一人と増えていき
あと2日でかの国に到着するという時には、ついに最後のひとりまで消えてしまった。

いずれも船頭が甲板にいない時に消える。しかも陸に近い時に。
愚かな船長はそこで初めて気づいた。
死にそうになって海に落ちたのではないことを。
死にたくないから海に落ちたのだ。

風もない海の上。漕ぎ手を失った船は、水に浮かんだ葉っぱも同然だった。
怒号も悲鳴も聞こえない、遠巻きに見れば平和そうな船。
しかし自尊心ばかりが強い船頭の心は、
かの国に知れ渡るであろう自分の失態を思うと、まさに錯乱状態だった。
自己への怒号と、自己の中の悲鳴。

誰もいない、島の影さえ見えない海のど真ん中で、彼は海の奥底に身を投げた。

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ボクらがここに集まったワケ【第六章】 [思いつきショートショート]

久しぶりに太陽の光を浴びたタイムカプセルは、
一目見て失望に変わるほど無惨な姿だった。
期待していた「懐かしい〜」という感傷とはほど遠く、
20年という時間の酷さを、6人とも心の中で感じていた。
土まみれで変色した表面、凹んだフタ…
たけしが、いちばん最初に手を差し伸べ、
大きなポリバケツを拾い上げた。
ユンボを下りた潤がそれに手を貸し、しばらくだまったまま6人がそれを囲んだ。
「たけし、開けてみろよ」
沈黙に耐えかねた陽一がたけしに促す。
たけしはおそるおそるフタに手をかけ、ゆっくりと持ち上げた。

誰もが最悪の保存状態を覚悟した。
しかし、6人の目に映ったものは、思った以上に“鮮度”を保った品々だった。
傍らで見ていた三人組も、嬉しさと懐かしさを表情に浮かべて中を覗く。
筆箱、写真、野球のボール、エプロン…
それに当時の27人がそれぞれ将来の自分に宛てたメッセージ…
一つ一つ潤が取り上げ、他の5人が懐かしそうに回し眺める。
変形し切ったポリバケツの横に、27個の思い出の品を並べ、
あらためて6人は当時の記憶に思いを馳せた。

陽一はふと、裏返しになったフタを見て、その内側が二重貼りされていることに気づいた。
フタと同じ大きさで丸く切られたプラスチックの板がはめ込まれていた。
おそらく先生が作ってくれていたのだろう。
そのおかげで、自分たちの記憶が守られたのだ。

陽一はそのフタを手にとり、さらに詳しく観察した。
よく見ると、そのプラスチックの板は1枚ではなく2枚重ねられている。
指先でそれをつまみ出すように外してみた。
すると、2枚の隙間から、封筒が滑り落ちた。

他の5人もその封筒を見つめた。
「20年後のキミたちへ」
懐かしい文字がそこにあった。

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ボクらがここに集まったワケ【第五章】 [思いつきショートショート]

「磯村先生とは、卒業以来、会っていなかったし、最初はそれが先生だと分からなかった。
あまりにも老けた様子だったから。
でもその時、感じたんだ。先生は病気、それもたぶん癌だと直感した。」

「それで?」

「先生から言われて、タイムカプセルのことを思い出した。
あのタイムカプセルを開けようと約束した日は、20年後の4月5日。
つまり今日だ。
その日まで、校舎を壊さずにいてくれないかと。
先生はもう随分前に退職していたけど、おそらくどこかから工事のことを聞いたんだろう。
それを聞いて、無性に懐かしくなってな。急いで潤に相談したんだ。
残り1ヶ月しかなかったけど」

たけしの話を受けて続いたのは潤だった。
「オレも忘れてたし、たけしから聞いて、正直なところ悩んだ。
この校舎の解体工事は、ウチの会社が請け負っている。
今の経営状況を考えれば、一日でも早く着手して資金繰りの足しにしたかった。
でもやっぱり、タイムカプセルを開けるまでは、待つべきだと決めた。
それで、足立の親父さんに頼みにいったんだ。
足立の親父さんは町役場のお偉いさんだから、直接話をして了解を得ようと」

足立が言った。
「夜、お父さんからその話を聞いた後、潤君に電話したの。
磯村先生の話も聞いて、時間がないけど、できるだけのことはやってみようってことになったの」

「最初、何人かに声をかけたんだけど、結局のところ、幹事会に集まったのは、
町の計画にNOとは言えない人間だけだった。
たけしは清掃局に働いてるし、渡辺んちはもともとゴミ回収車の会社。
京子ちゃんの旦那さんは、県の土木課に勤めている」
地べたに視線を落としながら、潤が説明した。

「それで、磯村先生は?」陽一が聞いた。

「2週間前に亡くなったそうだ。先生に掘り起こす日を伝えようと電話したら、
奥さんが出て、初めて知らされた。
タイムカプセルの話は奥さんも知っていて、先生は悩んでいたそうだ。
教え子たちにタイムカプセルのことを知らせるべきか、
そのままそっとしておくべきか」
たけしはその時の会話を思い出ながら声を沈ませた。


陽一は、淀んだ雰囲気に堪え難い苦痛を感じ、腕時計を見た。
「そろそろ始めないか。結局は6人だけだけど、それでもこうして集まったんだから」

「そうだな、じゃあ、あれを持ってくるわ」
潤がユンボのほうへと歩いていった。
しばらくするとエンジンがうなり、黒煙を吐きながら近づいてきた。
たけしが記憶を頼りに場所を指差すと、潤はユンボを操作して、大きなツメを校庭の土に食い込ませた。
全員の視線が、少しずつ深くなる穴の中に集中する。
7回ほど掘り返す作業を繰り返すと、まるで「キミたちを待っていました」と言わんばかりに、
タイムカプセルが姿を現した。
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